第一話 尾沢の人々

オレが住む旧尾沢村は南牧にもう一つオザワ(小沢)という地名がある関係で「しっぽざわ」とか「おっぽざわ」というニックネームがついている。

戦争に行った親父の数年先輩が兵役検査に行った時のことだ。氏名年齢住所を問われた。直立不動の姿勢で氏名年齢を元気よく答えた後、住所になった。

「はい!群馬県・・」と元気な声がそこで止まり、顔が赤くなる。

「どうした、先を言わんか」検察の上官が促した。

「はい!・・」

住所が出てこない。青年の顔が真っ赤になる。上官はニヤニヤしながら再度促した。青年は直立不動の姿勢をさらに直立させると

「北カロリン尾沢村・・父、上のカマ、ボク、下のカマ」一気にそう答えた。上官は笑いながら甲種合格のハンコを押した。

この純朴な青年は当時の村の子供と同様、尋常小学校にほぼ行かず家業の炭焼きを手伝っていた。文字も満足に読めなかったようだ。当時の住所は北甘楽郡(きたかんらぐん)尾沢村だったが北甘楽郡がうろ覚えで「北カロリン」となり、区域名や番地がわからないから、思い浮かんだ情景を「父、上の(炭焼き)カマ、ボク、下の(炭焼き)カマ」と続けたと推量される。

その後、キタカロリンが彼のニックネームになった。

尾沢のわけぇものは、はたらきもんだめぇ。

 

【尾沢のかぢか寄稿】

 

※この記事は「なんもく山村ぐらし通信第38号」に掲載されたものを再編したものです。