第四話 バス旅行

今から50~60年前の話である。

砥沢の婦人会が、バス旅行で長野に栗拾いに行った。その頃は道路工事が盛んで、あちらこちらで舗装やら拡張やらが行われていた。林さん(仮名)が車窓を眺めていると、ある工事現場で、ばかでかい男の人が腕を振っていた。隣で作業をしている人に比べると2倍近くある。

「うんまあ、でっけえ人がいるよ」と、林さんは思わずでっけぇ声をあげた。林さんは砥沢集落の住人で、めったに町に出ない人だった。おふくろが声の方を見てみると、その大きい人はブリキの作り物だった。車に注意を促す看板で誰が見ても本当の人間だとは思わないが、何しろバスの中からだからよく見えないし、あっという間にすれ違ってしまう。「ほんに・・・でっけえ人だったねえ」と興奮冷めやらず、隣近所の人に話しかけている。おふくろを含めて周りの皆は既に知っていたから、とってもおかしかったが、「長野は水も米もうまいし、気候がいいから、おっきくなるんだめえ」と調子を合わせていた。そのうちに気が付くと思ったのである。本人は真に受けて「なるほど」と感心している

それから少し行くと、次の工事現場では大きなアヒルが腕を振っていた。すると、先ほど感心していた林さんは、あまりのことに息を飲んで「まあ、困ったよ。まあ・・困ったよ」と両手をあちこちにあてながら、もじもじしだした。その様子があまりにも可愛かったので、バスは爆笑に揺れた。賑やかなバス旅行になったと、おもしろがったという。

おとこしも、おんなしも、とっても、おもしれ~めぇ。